以前は、「物忘れを自覚できているうちは大丈夫」と言われてきましたが、物忘れは将来の認知症のリスクのひとつであり、物忘れを自覚し始めたら、認知症予防にすぐに取り組んだ方がよいでしょう。認知症は、物忘れ(記憶障がい)など認知機能の障がいによって社会生活が困難になる状態で、代表的なのがアルツハイマー型認知症です。
これは、アミロイドβという物質が脳に異常に蓄積して起こる病気です。
最初のうち、日常の会話は普通にできるのですが、年月日がわからなくなります(見当識障がい)。
さらに進むと、冬に夏服を着るなど季節に合った服を選べなくなります。
お洒落な服を着ていた患者さんが、服装を気にしなくなるのを外来でも経験することがあります。
料理や買い物が億劫になり、細かい計算が面倒になってきます。
千円札や1万円札で勘定をするため、小銭が増えてきます。
やがて、今いる場所がわからなくなり、道に迷ったりします。アルツハイマー型以外にも、脳血管性、レビー小体型、前頭側頭型認知症(ピック病)など、さまざまなタイプの認知症があり、必要な対応も若干異なります。
「今、食事の支度をしますね」と言って話題を変えるなどして、プライドを傷つけないよう穏やかに対応するようにしましょう。
物忘れ(記憶障がい)より、幻視の症状が先に現れるのが、レビー小体型認知症です。
「何もいないよ!」と頭から否定すると患者さんは混乱し、症状が悪化するので「何がいるの?」と尋ねてみましょう。
脳血管性では、症状がまだらで、感情の起伏が激しいので「少しすれば元に戻る」と考えて落ち着いて対応します。
中には、手術でよくなる特発性正常圧水頭症などもあります。
気になる家族や知人がいる人は、物忘れ外来などを受診してみてはいかがでしょう。我々の研究室では脳神経内科と共同して、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβを取り除くことに注目した「ストップ認知症プロジェクト」を立ち上げています。
アミロイドβの脳への蓄積は、認知症発症の20年以上前から起こっていると考えられています。
70歳で発症する人なら50歳頃からたまり始めています。
脳の血管が柔らかくて、よい拍動をしている人は、アミロイドβが取り除かれやすいことがわかっています。
そのため、中年期から動脈硬化を進めてしまうメタボへの対策が、認知症予防につながります。